近道の途中の細い路地を折れる

 これから冬のあいだもずっとそうだけれど、太陽の位置が低くなるとともに、落葉樹が葉を落として、光が地面まで届きやすくなると、街の光と影の作る模様が気になりだす。葉を落とした樹影がどこかの壁に毛細血管のようなゆらゆらとした線を繋いだ影になっていたり、並ぶ戸建ての家々の霧妻屋根などが三角形のギザギザ模様を舗装された路地に落としている。そういう光景が晩秋から冬を越えて初春までの季節の街歩きの醍醐味というのか、いや私的なことかもしれないな・・・カメラを向けてしまう好きな光景だ。この街に引っ越してきて30年以上の時間が流れて、その間に一度も引っ越していないから、家からたとえば駅までの道は一通りではなく、二つ三つ四つ・・・どこを曲がればここに出るというような応用編のように気まぐれで組み立てられるが、それでも、昨日の午前、人と自転車が国道の交差点を三角形にショートカットする近道を歩いていたら、さらにその小路の途中で左の路地から自転車が一台出てきて、同時に自転車が一台そっちに行った。この路地はおよそ30年前にいちど、近所の探検気分で曲がったことがあったが、行き止まりのはずで、だからもう30年以上その路地に入ったことなんてないけれど、もしかするとなにかの建物があらたななにかに建て替えられたときに、袋小路が突破されて、紳士服のAの裏手あたりにつながって近道の近道になったのかもしれない。そこで、それを確かめるために路地を曲がる。突き当たりに小学校の裏門があり、路地はそこからさらに右へ曲がって行き、進むと正面が学校関連(学童を放課後に預かるようなのかな?)建物で、そこで行き止まりだったから、30年前とたぶん同じ袋小路だった。だけどほんの数十メートルの袋小路でも、こんな風に屋根の作る影があり、トタンで作られた倉庫には電線が影を作っている。道や建物が変わっていなくても、その日の光や、その日(季節)の雑草や木々の様子で、そしてなにより私がもう30年もここに入り込んだことがなかったということが加味されて、ちょっとだけだけど気持ちがうきうきして、まぁこれだって非日常な感じ、イコール旅した感じが、しないでもない。袋小路からいつもの近道に戻る。近道の国道に出るところには白い可愛らしい二階建ての小さな賃貸マンション(アパート?)があるが、ここは南側にある大きなビルの影になり、どの部屋もだろうか、とくに一階は、夏のある一時期しか日がささない。いまは全戸南側のベランダに終日、日がささない。そこに住むことはないが、ある日を境に日が届きだすと部屋というのもなにか物語を生むのかしらと思う。その日の差さない白いマンションの隣の木造平屋の庭に柿の木があり大きな実が生っていた。