覚えていること

 夜、そこへ行けば、美味しい料理と美味しいお酒があり、ほどよい音量の音楽と誰かの雑談があり、話し掛ければ応じてくれ話したくなければ放っておいてくれる人がいて、しばし心を休めることができる。長居はしない。夜の中に戻る帰り道、少しだけ私は強くなっているから、躊躇していたことや、諦めていたことを、やれそうな気にさえなれる。

 実際には、そのうちまた暖まった心は冷えるかもしれないけれど、結局なにも踏み出せなかったとしても、そうなってしまったら、せめて小さな希望を取り戻すために、またそこへ行けばいいじゃないか。そういう店・・・いや、写真のような店はひとつの例に過ぎなくて、店じゃなければそういう頼れる人や場所を、誰もが持つことが出来ればいい。誰かを、孤独にしない、一人にしない、泣いている人を放っておくな。

 なにも出来なくても覚えていることがその最初の一歩。祈りましょう。