チェリーパイを買って帰った雨の夕

 雨の金曜日(昨日)の夕方、テイクアウトパスタを買ってきて家で夕食に食べようと、傘をさしてバス通りを西へと歩く。店まで100mと少し、バス通りの舗装は轍の位置が窪んで雨水が溜まるから、通り過ぎる車が水しぶきを上げていく。歩きながら車道を走って来る車の速度と位置を見て、水しぶきが上がりそうなときには、それを避けることが出来そうな場所に立ち止まる。長い柄の傘は、数年前に不意の雨が降ったときコンビニで買った。その傘の生地のゴワゴワした材質のせいなのか、傘に当たる雨粒の音が大きく、バラバラと聞こえることに気が付く。いちど気が付くとその音が耳から離れない。この音は雨の音を真似てなにかで、小豆を使うんだっけ?疑似的に作った音に似ている気がする。本当の雨の音なのに疑似的な雨の音に聞こえる。いまは小豆で疑似音など作らなくても、本当の雨の音を録音した音声ファイルがフリーで手に入るのだろう。

 いつもは何人かの先客がいるテイクアウトパスタの店に客はいなかった。いつもよりじっくりと選ぶ。自家製ソーセージとフレッシュトマトとほうれん草のクリームパスタに決めた。麺をペンネにする。店を出ると、すぐ隣は美味しいパンをたぶんご夫婦で作っている小さなパン屋で、この店にも先客はなく、いま夕食に食べるパスタを買ったばかりというのに、ついつい引き戸を開けてしまった。数少ないスイーツ系のパンのなかにこの写真の「チェリーパイ」を見つけた。買う決心に天気は影響する、のだろうけれど、どう影響しているかはわからないことが多い。雨でなければチェリーパイは買わなかったのか?雨だからこそ買ったのか?暗い部屋に暗めの色の甘い菓子を持ち帰ろう。(なお写真のチェリーパイ、半月状で直径は15センチ弱くらいです)

 黒いシンプルなマイバックのなかにクリームパスタとチェリーパイを入れて、帰り道。途中、歯科医院の前を通る。あぁ、そろそろ定期的な歯のチェックと清掃をしてもらわなくては、と思う。そろそろ床屋も行くべき頃だから、明日の午前に雨が上がっていれば駅近くのいつもの床屋へ行こうか。帰宅して、NHKテレビの天気予報で雨は明日の午前に上がるか上がらないかの際(きわ)にあることを知る。それから歯科に電話をし、次の次の火曜の17:00に予約をするが、そのあとにその時刻に仕事(会議)が入っていた気がしてきて、もう電源をオフにしてあった会社支給のノートパソコンを再度立ち上げてスケジュールを確認すると、案の定予定で埋まっていた。もう一度電話をして、受診の時刻を変更した。

 くるりの曲に「チェリーパイ」という曲があったことを思い出した。『まだ内緒なんだこの事は 黙って食べてもばれやしない 甘い甘いチェリーパイをよく噛んで喰う 煮えたぎった欲望をただ愛と割り切って』。(雨の夜の)危ない男と女の物語(なのか?)。そんなふうに聞こえてしまう私が間違っているのか?

 テレビに映るサミットが行われている広島の町はまだまだ明るいが、広島より東のこの関東地方はだいぶ暗くなっている。だけど最近は街灯がずいぶん明るくなって、身を潜める夜の暗さは少なくなったから、チェリーパイを食べる場所も見つからないな、と、くるりの歌詞からの連想する。

 紙袋に入ったチェリーパイを取り出し皿に載せたら、シンプルで美味しそうなその佇まいに惹かれる。食べる前に写真を撮っておこうと自室に持ってきて、部屋の天井の蛍光灯を消して、低い位置から読書灯を、斜め上からLEDランタンの光を当てて、写真を撮った。そのあとゆっくりと食べたチェリーパイ。写真を撮ったライティングのまま、暗めの部屋で、甘酸っぱいそれをゆっくりと噛んだ。

 そのあと、天井の蛍光灯を灯し、パスタも食べ終えてから、撮った写真を見ると、チェリーパイが画面一杯に写っている。もう少し引いた位置から撮っても良かったんじゃないだろうか?ちょっと後悔するがもう食べてしまったから撮り直しはできない。早く食べたい気持ちが写真の構図にまで現れたのかな?寄り過ぎだ。

 外はまだ雨。ずっと降る。明日には止むとニュースに伝えられても、なんだかもう雨が止まない気がした。