靴にまつわる思い出

 赤い靴を履いたことがないな。白やグレーのスニーカーと、黒や茶色の革靴と、灰色のスウェードの冬に履く靴と・・・そんなのばかりだ。23歳の頃に、雑誌を読んでいたら靴にまつわるふたつの記事があった。

 ひとつは、雑誌ポパイの「夏を迎えるにあたってのシティーボーイ(と言う単語がよく使われていた(笑))のやるべき準備」といった記事だった。

「週末に海へ行き、サーフィンをしたりヨットを乗りこなせば、そりゃぁ女の子にも一目置かれるさ、だけど、いいかい?そのときにはデッキシューズを履いてるのが重要なんだ。今年の夏はデッキシューズだぜ、忘れるなよ、もう一度言おうか、夏をうまく過ごしたいなら、今年はデッキシューズさ。さぁ早速靴屋へ行こう!」

 こんな文体でその記事は書かれていた。それで週末になり私は靴屋へ行って紺色のデッキシューズを買った。シューズのサイドにも皮紐が通してあるのがちょっと特別でかっこいいのだ(40年前の感覚ですよ)。

 もう一つは月刊プレイボーイに載っていた誰かロック歌手のインタビュー記事で、それがビリー・ジョエルだったか、ブルース・スプリングスティーンだったか、別の誰かだったか?そのなかでロック歌手が、

「スニーカーは素足で履くんだ、それがいい気分にさせてくれて、次々とメロディが浮かぶんだ」

というようなことを言っていた。だから真夏のある日をそうして過ごした。しばらくは良かったが、真夏の湿度が高いなかで、一日経つと足が蒸れてしまい、ひどい匂いがし始めた。湿度の高い日本の夏には向かないことを知った。消臭スプレーを買ったものだ。

 写真は殺風景な街角を撮ろうと思った。人が歩いて行くから、画面のなかに置いてみたが、その人がこんな真っ赤な靴を履いているとは、写真を撮るときには気が付かなかった。こんなくっきりした赤なのに気が付かなかったとは、その方が驚きだな。