深夜の帰り道

 夜遅くに最寄り駅まで帰り着く。もう路線バスもなく、今朝出かけるときは雨が降っていたので自転車は使っておらず、タクシーは長蛇の列。およそ20分の道のりを歩くことにする。こうして夜遅くに、東京や横浜で遊んでいた人たちが、あるいは遅くまで会社で残業をしていた人たちが、ぽつりぽつりと「宴のあとのちょっと寂しく、ちょっと思い出に浸っている気分で」歩くなかの一人になりつつも、実はデジタルカメラを首に下げていて、帰り道の道筋にある定番の被写体を撮ることも滅多になくなった。五年十年と時が過ぎるうちに、定番にしていた被写体が消えたり変わったりしていく。なにかの工場には夜を徹して走る出荷の大型トラックが夜遅くにグリーンのダウンライトをともしてエンジンのアイドリング音を立てて停まっていたが、工場はマンションになった。途中二か所くらいにあったゴルフの打ちっぱなし場は、ひとつはスーパーマーケットに、ひとつは大型分譲マンションになった。黒塗りのトタンの壁に寄り掛かるように長い材木がたくさん置かれていた材木屋は、何軒かの小さな分譲住宅になった。この写真のトタン屋根のある工務店?の向かいにあった古い木造平屋はいまは駐車場。

 だけど全部が全部消えたってわけじゃない。まさにこの工務店の建物はずっとある。建物の左にちょっと写っている歩道橋もずっとある。町は徐々に入れ替わって行く、入れ替わった新しいものをちゃんと肯定的に受け入れていかないと、自分自身も入れ替わられて、ただの懐かしんでばかりのじいさんになってしまう。だけど、それ(新しい入れ替わったものに肯定的になること)が難しい。

 そうそう、少し前まで手持ちでここを撮ってぶれない写真を撮ることは不可能だった。さすが!最新のカメラはすごいです。