展示会場の掃除

 こう暑いと、地上はなるべく歩きたくない。冷房の効いた地下街やビルのなかの通路を使って、例えば目的地の駅の改札までたどり着きたい。だけど、地下数階から地上階まで複雑に重層的に通路が出来ていると、それを上から俯瞰した地図ではよくわからないし、斜めから立体視したような模式的な地図だと、それはじっくり見ればわかるのだろうけれど、肝心の道順を覚える前に、地下の構造はこんなに複雑なのか!と単純に感心している。そんなこんなで地上より涼しい地下通路を歩くときは、一方で自分がどこにいるのかよくわからなくなる。

 写真は国際フォーラムという東京駅と有楽町駅のあいだにまたがる大きなイベント会場で、私も過去この会場でジョアン・ジルベルトノラ・ジョーンズや、ほかにもたぶん何回かコンサートを聴いたし、ここを会場にした企業あるいは業界の展示会に足を運んだことも・・・あったか、なかったか・・・たぶん、あった。

 この写真を撮った日は、東京国際フォーラムの向かいにある新東京ビルの階段等々を見物というか撮影して、そのあと、帰るために東京駅から電車に乗ろうか、有楽町駅からにするか、いずれにせよビルの中や地下通路を歩いて行こう、と思った。そうして速足で歩いていると、イベント会場で柄の長いモップを使って掃除をしている人が見えました。こういう仕事も相当テクニックがいるんだろう。第一、相当重いんじゃないかな。

 8月も中旬になり、それも下旬に近づいた。まだまだ暑い、とはいえ、夕刻になるとなんとなく晩夏な感じがして、ちょっとだけ過ごしやすくなっている気がしないでもない。人の五感が感じていることは言葉でその理由を説明できないが、相当に複雑で敏感で、そういうふうに季節が進んだことを察知する。20時頃に外に出て近くのコンビニエンスストアまで歩いた。マンションのゴミ捨て場や玄関のわきや隣との境界に躑躅やほかの低木がちょっとだけ植えてあるが、その決して広くない低木の下の土のある場所から、たくさんのコオロギが鳴いているのが聞こえて来た。虫の声は例えば2週間前と比べると、数倍に増えているんだろう。コンビニエンスストアから外に戻ると、冷えた眼鏡に高温高湿の外気が当たって曇ってしまう。私の眼鏡が曇っても曇らなくても、コオロギが鳴いている。