秋深まる

 11月も下旬となり、ずっと残暑というより夏が終わりを知らぬかのように10月おわりまで続いた「名目上の秋」も、11月の中旬と下旬だけは、秋になった感が戻り、いまや「とくに紅葉の名所でもないけど街路樹が黄色や茶色や臙脂色に色づき」「日が暮れるのが早くなり誰もが一度はそのことを呟くように誰かに言い、これに関してはたぶんぜんぶ同意の呟きが返って来て」「季節の変わり目はいつもそうだけれど、春から夏には『おしゃれをさて置けば抜けばいい』のに、秋から冬は『しまってあった冬の装いを慌てて出してくる』こととなり」最後に「夏バテも解消したからか、美味しいものが出そろう時期なのか、やはり?これは結局どの季節もそうなのか?旬のもの(頭に浮かんでいるのは牡蠣ですけどね(笑))が食べたくなる」といった諸々により、秋だなぁ、とひとこと思う。

 少し雲の厚い秋の日、小さな飲食店が並ぶ、夜には人が行き交う繁華街の昼はひっそりとしている。寝坊している夜更かしの町を起こさないようにとばかり、静かに歩いてくと、そんな店のひとつ、窓際に地球儀が置かれていた。ちょうど通り(私のいる場所)からはNORTH PACIFICの文字が見える。地球儀の日本は長年のあいだに客がそこを触ったせいなのだろうか、だいぶ汚れて色が変わっている。

 ちょっと首元が寒いから、数年前にユニクロで買ったグレーのネックウォーマーを付けている自分がガラス窓に映っていたが、ネックウォーマーは自分が思っている以上に目立つんだな、ちょっとカッコ悪いな、と思いながらも、自分のその影が写らない位置まで数歩だけ動き、カメラのファインダーをのぞく。その頃にはもうネックウォーマーがカッコ悪いと感じた瞬間など通り過ぎ、そんなことは忘れていて、もうどこにピントを合わせるかを考え、少しだけNORTHの位置を中心から画面の左にずらし、ちょっと重めのヘリコイドを回して手動でNORTHの字にピントを合わせる。デジタルカメラはマニュアルフォーカスレンズ、すなわち60年代のオールドレンズを装着してピントを合わせるときに、CMOSの位相差信号を使ってピントの合っている場所に色を付けてくれるから、開放の薄い被写界深度でもピントを合わせやすくなった。ここまで、もしオートフォーカスなら1秒以下、オールドレンズは例えば4秒くらいは掛かっているのは、速射準備をしていなかったから、ここに書いた行為の前にレンズの絞り値を確認して、シャッター速度をISOがあまり高くならないよう、手振れがおきないよう、適当な数字にしている分もあるからだが、この4引く1の3秒の準備が、なにをもたらしているのか?3秒が余計でちゃちゃっとやりたいとき、というかそういう被写体もあるだろう、走り回る子供とか、だけど、深まった秋の日の曇りの日の眠っている町を歩いて、写真に光景を拾い集めて行くときには、たぶんこの差の3秒があるから、それは古い喫茶店でホットコーヒーを頼み、出された珈琲から白い湯気がふわふわと立っているのを見た瞬間、飲む前に「ほぉ」と思う瞬間のように、ときには素敵な3秒かもしれないです。