深夜まで議論すると良い

 少し前のこと、中華街で、友人と計四名の食事をした。アイナメと言う魚を瀧井茶に漬けてから焼いたという料理が美味しくて、それも謎めいて美味しくて、出口の判らない庭に引き込まれてしまうような気分になった。そのあとに食べたピーナッツと海老を炒めた料理の(それも美味しい)山椒で舌先が痺れ、その辛さでやっと現実が戻り、アイナメに魅せられ見ていた夢が、物語ともども消えて行く。桜エビとレタスの炒飯とホタルイカの上海焼きそばをシェアして食べ、満腹となった。最後の杏仁豆腐をなんとか食べきって終了した。みなとみらい線で帰るという友人たちと、じゃあまた、と言ってから別れて、一人になり、JR石川町駅まで歩くことにして、途中でいくつか路地を曲がってみた。

 急に暗くなった路地で、アイナメの魔法が復活して迷子にならないよう、青島ビールの酔いから覚めるべく、頭を振ったり深呼吸をした。しかし、いつのまにか自分の周りを、白いひらひらした服を着た六歳くらいの子供たち三人が取り囲んでいた。けらけらと笑いながら三人が手をつなぐと、それでもう私は簡単に掴まってしまったらしい。冷たい汗が背中を流れる。私を囲む三人は、ぐるぐると高速で回りはじめる。中華街のたくさんの店のネオンサインの色が交じり合い、やがて子供たちが真っ白い光になると、私は空を飛んでいた・・・(作り話ですよ!)

 駅に向かう途中、酔い覚ましがてら路地を曲がったのは本当のことで、そうしたら中華街のいちばん端っこはここなのか、闇のなかにぽつんとこの写真の店を見つけた。店内には一組の大学生くらいの四人組の男性が見える。数秒見ていただけでも、あぁ学生のころあんな感じでいろんな「議論」していたな、飲んでいたな、女の子の話をしたな、映画とロックとジャズの話もして、そのそれぞれに主張があり、まさか応援するプロ野球チームのことでつかみ合いにならなくてもいいのに、なんだか(いま思えば)くだらない中身の話なのに真剣な「議論」だったし、主張を曲げる奴はあまりいなかった。

 若者たちよ!深夜まで餃子でもつついて、いろんな議論をすると良いよ。そう、それが良いと思うよ。

 するとさきほど夢に見ていた、白い服を着ていた三人の子供らしき声が、空の上の方からけらけらと聞こえた。